ひとり一句鑑賞(4)

  • 2013.04.20 Saturday
  • 16:01

「京大俳句」第五巻(昭和12年)第七號

「會員集」より


誕生日あかつきの雷顔の上に  西東三鬼


日常吟もすべて真正面から立ち向かう「京大俳句」の伝統の中でやや焦点をずらしながら物事に迫ってゆく三鬼の技法と特質に注目。(西田)


昇降機静かに雷の夜を昇る  西東三鬼


「京大俳句事件」でこの句を治安当局が階級闘争の激化をあらわす句として取り上げた。京大俳句(文芸作品)を治安当局(治安維持法)がどのように断罪するかを示す一例である。(西田)


昇降機しづかに雷の夜を昇る  西東 三鬼


新大阪ホテルにて。気象の異変と機械の静粛との関係を詠いたかった」と自解にある。三鬼の第一句集『旗』(昭和15年刊)に収録、代表句の一つ。雷光に撃たれるエレヴェーターのメカニックな固い冷たさ。静けさ。この二物の対比のクローズアップは不気味だ。それを平静な文体に載せた感覚は現代的である。電気の光を落した真夜中のビル。この四角な鉄の箱は、静かに屋上を目指している。おりしも、稲光に照らし出されたその中は、一個の殺人死体だけであった。こんな想像をしたら、三鬼は怒るだろうか。(佐々木 峻)


昇降機しづかに雷の夜を昇る  西東三鬼


掲句について「新大阪ホテルで雷雨の夜作った。気象の異変と機械の静粛との関係を詠ひたかっただけだ」と『三鬼百句』に作者は自解している。これは、言外に「詠ひたかっただけでは済まなかった」の意味が込められた自解だとおもう。「どんな句が引っかかりましたか」といふ貴問は、この弾圧事件の性質を知らない愚問である、とも西東三鬼は記している(「俳句研究」昭和24年7月号参照)。〈夜を昇る〉は、斬新かつ非凡な表現。(花谷清)


昇降機しづかに雷の夜を昇る  西東三鬼


「雷の夜すなわち国情不安な時、昇降機すなわち共産主義思想が昂揚する」(『俳愚伝』より)。という解釈により、治安維持法違反の罪に問われた句。そんな解釈アリですか。掲句は、因果的に無関係な二つの出来事を取り合わせた手法の見事さと、作者ならではの詩的創造力の世界を楽しめれば十分だと思うのですがいかがでしょうか。(小寺昌平)

昇降機しづかに雷の夜を昇る  西東三鬼


万愚伝より― 京都府警特高部*中西警部は*要視察人であった某新興俳人を強要して講師とし、六ヶ月間新興俳句解釈法なるものを学んだ。*私を担当した高田警部補は*昇降機しづかに雷の夜を昇るという私の句の意味は「雷の夜すなわち国情不安な時、昇降機すなわち共産主義思想が高揚する」というので、つまり新興俳句は暗喩オンリー、暗号で「同志」間の闘争意識を高めていたものだというのである。― *部分は(略)の意である。山口誓子も《海に出て木枯帰るところなし》に特攻機を暗喩しているという自解は一切ない。三鬼のような類禍を自然と避ける習性になったのではと思えるがどうだろう。新興俳句受難の一句をとくと味わいたい。記念すべき7月号でである。(綿原)


金借りて何處へ行かうか街は雨  村木 馨


季語も自然美もあったものではない。ただ、ひたすら斜に構えた散文調の句。この時代にも寺山修司はいたのか。遊びの金を借りたものの行くアテもない男にはやはり都会の孤独が似合うのだ。(四宮陽一)


銃剣がきらり五月の陽の寒き  中村三山


句題の「明闇」が良い。みょうあん。この世とあの世。幽明。現代では見られないが、その時代だったのだろう。いきなり銃剣がきらり。五月の陽の寒き。今では五月と寒きの季重なりと指摘される。五月といえば若葉、新樹の光があふれ夏らしい輝きをみせる。そこであえて寒きという。十七文字から時代の背景、若い作者の憤りが見て取れる作品。この作者の感性はすばらしい。(辻本康博)


生活の糧ともならぬ書を漁り  中村三山


久しぶりの中村三山の句。病気はもうよくなったのだろうか。無職を詠んだ連作?の中の一句。作者中村三山と同じように無職ではないにしても、私も満足な収入がある状態ではない。しかし、この頃、とくに俳句関係の本に眼がいくようになってしまったのは、ひとえに「京大俳句を読む会」のおかげだろうか。(恵)


家々のむつきかかぐる空の濁り  清水昇子


篠原鳳作の《太陽に襁褓(むつき)かかげてわが家とす》と杉田久女の《朝顔や濁り初めたる市の空》と比較してしまう。「空の濁り」に国情不安が隠してあるのだろうか。2句も有名な句が浮ぶところからすれば、満更でもないと思えた。(綿原)


闇迫るドブ板を猫鳴きわたる  清水昇子


わかり易いのが一番、「ドブ板」が効いている。今は殆ど見られないドブ板だが今にあっても違和感のない句である。しかし、「闇迫る」は、戦争へ突き進みゆく深刻な状況下に、国民の抵抗と不安の声が鳴り響いていると深読みもできる。(安藤英司)

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「會員集」にみる「桃色俳句」 (鑑賞者:堀本吟)

すこし前の号に、「桃色俳句」という文章が載った。そのつもりでみると、今号にも、濃淡さまざまだが桃色がかった句がある。濃厚にピンクのもの。真面目に読む気もしないもの。ここまでいわずとも、のイロエロナンセンス、グロもある。作品上に真面目な反戦俳句の気配ばかりを求めてしまいがちであるが、かれらにはどこか退廃への好奇心もあるのではないか?


屋上の高き女體に雷ひかる  西東三鬼


「昇降機しづかに雷の夜を昇る」の次に置かれている。検閲は、「昇降機」と「雷」の危険な関係にのみ神経を尖らせたが、私のイメージの中では、この女體の書き方がよほどスリリングである。


鍵白く地に光り葱を洗ふ妻  三谷 昭


私は,こういう光景にいちばんエロスを感じる。「鍵」も「葱」も、「妻」がそこにいるために。ひじょうに暗喩的である。

草匂ふ月が出ており看護婦ら  波止影夫


兵庫県立精神病院に転勤となり、靜塔とその寮に行った、ときのことらしい。白衣の看護婦がさまよう草匂う月夜の庭、ポール・デルボーの絵のようでありこれも妖しい。


ひそと閉す我が肺癖に夜ル散る花(は)片(な)  中島手火之


この作者の「一匹の鼠となつて石は飛べ」というのが、ありえない光景を言ってしかも生き生きしているので、一番注目、掲出句の叙情性も感傷的だが女性への思いを感じさせて好感が持てる。


若き娘の耻ぢらひ避けぬる野は緑  村木 馨


この句の青年は、すれ違っただけで、なんでこんなにアホらしくも感動するのだろうか?


苺出て第二の童貞しばし侘し  宮崎戎人


意味がわからない。が、ナンセンスな可笑しみがある。しかし、よくこんな句を真面目につくるなあ。


木々芽ぐみ夫人は性器を和服につゝめり  和田邉水樓


よくこんな句をマジメにつくるなあ。最近では普通に使われるようになったが。


吊鏡髭の男を引き寄せる  東條 團


銭湯の男湯で光景。鏡の男たちは全部裸であろう。日野草城ばり。


梅雨の戸にぽたりと落ちし朝の便  淺田善二郎


この「便」は、てがみのことか? それとも……可笑しい。


柘榴咲き處女の夢想の大胆な  井上白文地


暗示で読ませる。大胆に大胆なことを想像してみよう。


 日記抄
倦怠が性欲昂らす午後  中村三山


(明闇・六句新作)、(日記抄・舊作機↓兇隼誘腓鼎)「兵馬馳せみだるゝに寂(じゃく)とある日輪」(明闇)「生活の糧ともならぬ書を漁り」(日記抄)等々。新興俳句のリアリズムのレベルでは、まとまって世界観を出せる作家ではなかったのだろうか?


蝙蝠の窓に噎びてくしけづる  清水昇子


女だということは出ていないのだが、痴情の気配がある。


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「自由苑」より


「女教師よ」10句  西田 等
胎児をばつ ゝむ紫紺の袴締む
登校の女生徒とゆきみごもれり
女生徒のならびゆく眼を感じゆく
胎教に精肉店の旗を曲る
胎動に生きる教壇埃せり
胎動の黒板の線横に引く
みごもりて生徒に愛しくたれと思ふ
ほがらかな生徒にふとも妬心あり
喧噪な運動場を背にしゐる
髪ちさく結ひて孕める師よ帰る


季語がないと、こんなにも精彩を欠くかと思う。一句目が辛うじて時代性(袴)を表し絵になっているが、あとは男性として最大限の愛で素材を追っているものの、五句目の胎動に生きるはおかしいし、言葉遣いも荒っぽくて、ただ、短歌的把握の自己満足が場所をとってしまっている。残念。私ごとですが、30数年前の早春のわが詠
  予定日を問う生徒らの眼は輝きて応ふる我の声やや高し (石動敬子)


「三角点」より


枳殻垣しろき封筒咬めりポスト  藤木清子

夫と死別した清子は居を神戸に移し、兄の家に寄宿していた。当時、高屋窓秋の「白い夏野」の影響もあってか、多くの新興俳人が「白」を用いた。清子もその一人。若き寡婦の心の空白を「しろ」に托した。掲句にはまだ粗さがあるが、この感性の鋭さは翌年の名句「しろい昼しろい手紙がこつんと来ぬ」に繋がってゆく。(新谷亜紀)


うみまちのしろきふゆぢをめくらびと  かねもと青虹

「めくら」は現在では差別語として、俳句でも勿論使えないが、冬の海辺の、白い道を盲人が歩んで行くと言う描写に鮮烈かつ寂しい詩情を感じる。ただ、三鬼が「めくらびと」3句を「奨励し難い」のに採り、選評するに、薬草を売る声春陽に吹き吹かれ  青虹 の傾向を良しと示しながら採っておらないのが可笑しいと思いつつ、小生も左様に同意したい。(片山了介)



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