ひとり一句鑑賞(8)

  • 2013.08.02 Friday
  • 11:03

「京大俳句」第五巻(昭和12年)第十一號


「會員集」より


夾竹桃灼けり出征の家こゝにも  岸風三楼


夾竹桃は盛夏を代表する花である。私にとって昭和二十年八月十五日、太平洋戦争終戦の日と甲子園高校野球を想い出す。勿論、二十年八月には生まれていませんが。特に赤い花は血とギラギラと輝く真っ赤な太陽を連想させる。作句の時代は暗黒時代と言われ、出征する家も徐々に増えていった。ただその時代の様子を詠んでいる平明な句であるが、夾竹桃灼けりと始まる、破調の句である。定型でないだけに気になった次第。家こゝにもには、友人の家かも、彼女の家かも、親戚の家かも−。作者の不安な、怒りの気持ちがこの句から伺い知ることが出来る。(辻本康博)


出征の机上きのふの如くあり  岸風三樓


この句は、出征して久しいがずっとそのままにして昨日のようだと、平凡な日常が無季で自然に表現できている。今月は気に入った俳句はなかったのだが、77頁下段後より4行目の三鬼の選後の言葉「この種類の俳句は・・・」が気に入った。無季ではないが三鬼の「はらわたをひきづる・・・」にこの言葉をそのまま返したい。(えいじ)

書にあきて冷き足をかなしめり  波止影夫

本を読むのに夢中になっていたときには感じなかった足の冷えを、ふと本から離れて我に返ると、感じてしまう。今だったら、本はパソコンであろうか。靴下を穿くのが嫌いな私は、冬でも素足であり、足の冷たさをこのごろよく感じる。これは年のせいであろうか。(恵)


子のうたふ軍歌が耳に一日あり  太田蝉郎 (蝉の字は本字)


戦争がどのようなものなのか、歌詞の内容が何を意味しているのかさえ知らない子等が唄う軍歌の不気味さ。そのあどけない歌声が作者の日常を揺るがすのである。(小寺 昌平)


血が冷ゆる夜の土から茸生え  西東三鬼


‘戦争’をテーマにした4連句の中の一つ。戦火が拡がり、轟く砲声に生きとし生きるもの全てが血を凍らせる戦争の日常。血を吸った冷たい大地から夜生えてくる茸は何を意味するのか。三鬼独特の戦争に対する生理的嫌悪がこの異形の生物の姿を借りて詠われているのではないか。(四宮陽一)

              
我講義軍靴の音にたゝかれたり  井上白文地


掲句は、68年後の平成17年3月、姫路市飾磨区の法華宗妙諦寺(みょうたいじ)において句碑となる。合わせて白文地の六十回法要が営まれた。白文地を敬愛する同宗の僧侶、上嶋智岳さん(「京大俳句」自由苑作家上嶋泉氏のご子息。わが「読む会」のメンバーでもある)がこの句を選ばれたそうだ。まだ写真でしか拝見していないが、智岳さん自らが揮毫されたというこの句碑は、太くて力強い楷書文字。自由にものが言えない、伝えられない戦争の世を怒る白文地の思いと、その思いを後世に伝えようとされる智岳さんの強い願いが込められている。(新谷亜紀)



「自由苑」より                                                 


泡盛屋戦地ニュースを壁に貼り  西田 等


現在のサッカーや野球のように得点経過ならいざ知らずこの時代、何処からの情報で、何の紙に、なんと書く?気になることが書かれていない。以前日本のデザイナーの草分け早川良雄氏が戦後、大阪市の配給のお知らせを一枚一枚書いていたそうで、残るものでもないのでと悔しがっていました。戦地ニュースもこれも銃後というのでしょうか、見たいですね。(綿原)


   わかれ1
化石した表情で二人だまつてゐる  上島泉

「このまゝで別れねばなれならぬ二人?」

遠ざかる姿あの娘の藍(あを)いきもの

これまでの上島泉から大きく変身しようとする意欲的な物語的作品である。この方向を求めるならさらに奔放な世界が必要。(西田)



 「三角点」より

            
コロナ燃え大向日葵に女(ひと)佇てり  京都市  先手院 白風                           


        
燃えるような太陽が冠状の光を眩しく放っている下で、大きな向日葵がおおらかにそのあけっぴろげな面貌をさらしている。生命の根源の太陽と、その光のもたらす力を満面に享けて咲く向日葵と、それは真夏の表わす、強靭な生命力を象徴している。この情景の中に、人間が加わるとすれば、男ではなく、生命の守護神である女人をおくしかない。太陽と女、神話の世界の始源は天照大神なのだ。しかし、この女人はただ佇ん でいるだけだから、あまりの眩すぎる世界に弱弱しく立っているだけなのかもしれないが、それでも存在感はある。ゴッホか、ルノワールの絵にあるようなイメージを想う。(片山了介) 

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