ひとり一句鑑賞(10)

  • 2014.05.01 Thursday
  • 23:49

「京大俳句」第六巻(昭和13年)第三號

「自由苑」より

あひびきを眼下に蒼いかたつむり  堀内 薫

ひっくり返したような視点が新鮮でおもしろい。(えいじ)

雲のゐる枝をふうはり切りおとす  西田 等

日中戦争が本格化する昭和13年発行の本号は右を向いても左を見ても、戦争の高揚と嘆きの交錯する句が続く。この時期、花鳥風月も如何なものかとは思うものの、やはり息苦しさは否めない。その中にふと、台風の眼のように小さな青空が見えた気のする句がこれ。梯子を木に立てかけ高みへ上っていく作者。枯れ枝を切っていると次第に雲の浮かんだ空が広がってゆく。その先に夕餉の支度をする町が見えてくる。まだまだ日常がここにはある。それさえも許されない時がその先に控えているのだが。(四宮陽一)

二日閑かにけふ新聞の来ぬ平和  貞永 勝

病舎で療養している作者。現在も正月二日は新聞休刊日。当時も休刊日であろう。さすがに病舎も正月は閑かである。新聞の来ぬ平和。平和と体言止めで句を引き締めている。若者にとって当時の新聞は濁世の坩堝と思われる。戦時下の軍歌あふれる街、戦争に突入する日本を含めた世界情勢を国家統制の新聞は報道する。若者にとってそんな新聞を読みたくはない。そこで逆説的であるが、そんな新聞が来ないことが平和であると詠んでいる。
「さくら枯れてかなしき軍歌こゝに聴く貞永勝」第六巻第二号で私が鑑賞した俳句と同じ作者。若者の厭世感が感じられる作品であると書いたが、今回の作品もそれに通じるものが感じられる。最後に平和という、言い切った直接的な名詞に好感がもてる。(辻本康博)


「三角点」より

 白文地選
しづけさをつきあげて眸ひらきたり  神戸市 藤木清子

今月も藤木清子の句を選んだ。朝、目覚まし時計より早く眼を覚ましたときの感覚である。まだ暗いなか「生きているんだ」と、生を確かめるように「眸をひらく」。完全な無季俳句であるが、井上白文地も評しているように、「つきあげて」という語が効いている。(恵)

山茶花のよごれ咲く夜に戦ありぬ  大阪市 大間知君子

戦況はますます拡大し、出征兵士を見送ることも多くなった頃。山茶花が汚れ咲いている。白い花びらはきっと散る間際なのだろう。少し茶色がかって寂び寂びした感じ。そしていったん散り始めると、痛々しいまでにばらばらと一気に散る。今まさに最前線で戦っている兵士たちにも、もしかしたらこの先呆気ない死が待ち受けているのかも・・。そんな空恐ろしさと、銃後の暗い気持ちを静かに詠んでいる。(新谷亜紀)


「会員集」より

貸間を探す三十路の頸に風いたし  井上白文地

寒中見舞いに「風を烈み岩打つ波のおのれのみ砕けて物を思ふ頃かな」を本歌にした狂歌役人一首を作り,年末に急逝した同期生を悼んだばかりの私の目に,この句が飛び込んだ。「風いたし」の表現が,昭和12年12月の「京大俳句五周年記念大会」の頃の俳句界に生きていたと始めて知った。もがり笛がひゅうひゅう泣く烈風は文字通り「痛い」だろう。「風を烈み」の雅語が納得できた1句である。独身の白文地が烈風の中,頸をすくめて貸間探しに歩く姿は寒々と感じる。なお,記念大会の披講は「一等披講士野平椎霞が,音吐朗々・・・病後どころの話ではなく,広い講演室に響き渡る声」で行ったと,白文地の報告がある。椎霞は10年10月号を最後にほとんど俳句を発表していない(14年1月号の3句を最後に千葉県佐倉連隊から上海上陸)。この頃「永い間の病気だった」と次号に自分で書いている。三鬼も三山も一時はかなり重い病気と書かれている。寒い。(野平大魚)

青空にもがりぶえあり宿移る  井上白文地

白文地氏の、この冬貸間を探し引越した感想を詠んだ4句の一つ。その日は、晴れ上がった冬空に、虎落笛がうなっていたことであると淡々と述べている。引越し先での今後の暮らしがはたしてどうなるか分からぬが、「もがりぶえ」は烈風のうなりであり、新生活の明るい青空のなかに、一縷の緊張と不安をはらんでいるようである。こうしてみると、この1句は季語たる「虎落笛」に全く頼りにして成っている訳で、無季俳句の唱導者・白文地氏も、素直に季語の力を認めざるを得ないというところであろうか。(片山了介)
 
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