ひとり一句鑑賞(15)

  • 2015.02.06 Friday
  • 23:46


「京大俳句」第六巻(昭和13年)第八號

「会員集」より

 

兵となり男の嘘がふと消える  仁智 榮坊

 

女のこころのタイトルで三句の一句。無季で散文調の作品。兵となり男の嘘が一節で、後はふと消える。

嘘を交えた会話で戯れる男と女。ある日、男が兵となり出征すると告げ、女は驚き、現実に戻される。嘘であって欲しい。戦時中の男女のやるせなさ、くやしさが感じられる作品。特に内地に残された女のこころは如何ばかりか。叙情的で短編の一場面を想い浮かぶようだ。反戦を心の内に秘めている。(辻本康博)

 

「三角点」より

                                 


日章旗ひらひら遺棄死體の上  仁科 海之介                                          

 

戦争俳句が新興俳句の展開に中核的な意義をもつと、一致して当時の主導者は意気込むが、実作においてこれぞという句にはなかなかお目にかかれないようである。そもそも実際戦地にあって、目前の情況・実景をリアルに掴み取って詠むのではなく、銃後・国内で、例えばニュース映画などを見てイメージを得たり想像をはたらかせたりして作らざるを得ないのが実態で、当然いわゆるアタマ句らしいと判ぜられてしまう。

この句もそういう見方をされるものの一つかもしれないが、戦場に「遺棄」された兵士の屍が放っておかれている、それを弊履のごとく踏みつけて日章旗をかかげて進軍していくという戦争というものの実相を提出していることは、日本が中国において強引な戦争を拡張していることへの批判を含んでいるとみられなくもない。おそらく軍の当事者や国体維持の当局が弾圧に乗り出す口実に挙げる例句の一つだろうと思われる。

ただし、それをもってこの句が俳句という詩精神に資するかどうかは別の問題があると思うが、当時の状況に対する批判精神に、小生は共感を覚えるのである。(片山了介)                    

 
千人針見て地下道にもぐり込む  西田 等 


この句は特筆すべきだ。なぜかというと、当時の秘密資料に何回も収められているからだ。たとえば内務省警察局の「社会運動の情況12」には反戦俳句の例として挙げられている。又、「思想月報第78号」にも載っている。後者の場合は「平畑富次郎に対する治安維持法違反被告事件予審終結決定」という文書の形で、平畑静塔がこのような「銃後ノ生活苦等ヲ素朴トシタル反戦俳句ヲ一般購読者ノ投稿作品中ヨリ選句シテ発表」したことが彼の逮捕の理由の一つであるとわかる。

然し、私の卑見なら、この句を「反戦」と名付けるのは明らかに過言である。もちろん、「地下道」と「もぐり込む」の言葉遣いで、読者の中には不気味な気持ちが涌いているけど、この句の本音はやはり解釈によって違う。それは俳句自体の問題であるかもしれないが、表面が17音で限られているから、内容が曖昧であると決まっている。

にもかかわらず私が想像している風景も反戦っぽいといってもいい。「千人針」は季語の代りの戦争キーワードで、出征の意味が含められている。別れるとき(歓送)には母や妹などにお守りとして一生懸命に縫った千人針をくてれ、戦場に着るという習慣があった。作者がこのような出征と関連している千人針(自分のためのものであるか、他人のためであるかわかりません)を見て、私ももうすぐ戦場に立つかもしれないという不安な気持ちになる。それで逃げてしまう、自分の出征から逃げようとしている。作者自身は戦場には居たくない、又は戦場へ逝きたくない。それゆえに地下道にもぐりこんで、自分を隠そうとしている。他の千人針をモチーフとする俳句とけっこう違う風景であると思う。

Martin Thomas

 
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